ヒト

熱意だけでは社会は動かない、共感と客観視点を軸にしたエンジニアのチームづくり。Coaido玄正慎インタビュー

Co(共に)+aid(救助)+do(する)

「誰もが助け合えて、健康でいられる社会を実現する」をミッションに掲げるCoaido社は、スマートフォンの位置情報を利用してAEDの使用率を向上させる『ファーストレスポンダーシステム(FRシステム)』を開発・運用するスタートアップ。

同社のCEO玄正慎(げんしょう まこと)さんは、ハッカソンをきっかけに事業を立ち上げ、毎日約180人が心停止で死亡するこの日本において、アプリの力で社会を変えようと日々活躍されています。

しかし、彼は大学卒業後「ヨコハマ経済新聞」の記者、ビジネス雑誌のライター、不動産会社勤務を経て、iOSアプリの企画開発に取り組むという異色の経歴。2009年よりフリーランスでアプリの企画開発を開始し、アプリによる収益で生計を立てながら、IT業界の各種イベントへと参加するようになりました。

こうした背景からもわかる通り、元々AEDに対する問題意識があったわけでも、社会的な活動をしていたわけでもありません。

しかし、そんな彼がAED活用促進のシステム開発のために多くの人の賛同を集め、クラウドファンディングで初期開発資金300万円を調達、京都大学教授の協力を得ることができたのはなぜでしょうか。今回は、そうしたアプリ開発から組織づくりのお話をご本人に伺いました。

僕自身がエンジニアではないからこそ、周りの人を巻き込む力が必要だと思った

—FRシステムの開発・運用をされているエンジニアさんは、社内の方が多いのですか?

玄正:私たちのようなスタートアップは社内だけで完結することは難しいので、 外部の人とも契約しています。専門性の高い領域はそれが得意な外部のエンジニアと一緒に取り組むほうが効率的ですから。

それに自分が医療や消防関係の専門家ではありませんから、そういったエンジニアの外部の方々の助けを借りなければいけない場面も多々あります

—そもそもAEDを扱うにはライセンスが必要なのでしょうか。また、管理はすべて消防署ですか?

玄正:AEDは医療機器でありながら、一般人にも使用が認められています。ライセンスは必要ありません。そして実は誰でも買うことができて、基本的に購入者が管理します。日本のAEDの役半数が税金で買われて公共の施設に置かれているもので、あとの半分は民間企業が買って置いているものですね。

多くの人はAEDの存在は知っています。しかし、いざというときに自信を持って使えるという人は少ない。 AEDは国内で流通しているものが7社あり、メーカーや機種によって色や形は違いますが、基本的な仕組みは同じで、電源を入れると音声案内が流れて、その指示に従えば初めての人でも使える設計になっています。

開発の話に戻ると、「巻き込む」ということが重要だと思っています。すべてをスタートアップの組織で内製するというのは難しいですから。

もちろんお金を集めて社内体制を作ることは大事であり、今後積極的な採用に取り組んでいきますが、一方でスピードも重要です。外部の人も巻き込んで、その力をうまく活用してより早く有効なソリューションにたどり着くことも必要だと思っています。

根っこにあるのは「共助」。具体的なサービス設計の背景にある一貫したビジョン

—Coaido社の取り組みやアプリ開発に直結するお話ですね。ぜひお聞かせください

玄正:弊社のビジョンの中心には「共助」という概念があります。何か助けが必要な人がいるときに、その近くにいる人たちで緊急的に共助が成り立つ仕組みを作ることができれば問題解決できると考えています。助けが必要な人の最たるものが、突然心臓が止まってしまい、わずか数分で命を失う危険がある人です。そこに AEDを持っていってあげることは誰でもできることだし、救急車よりも早くAEDを使うことで助けられる命がある、という発想からアプリの構想が生まれました。

今のAEDの使用率って実は3.5%ほどなんです

つまり、ほとんど使われていない。だからこそAEDの設置場所付近にいる人と心停止の起きた現場を結びつけることができれば、もっと使用率って上げられるんじゃないか、死亡率って下げられるんじゃないかって思ったのが、このアプリ開発のキッカケですね。

弊社が開発しているFRシステムは、119番通報を受ける消防指令センターに導入していただくことで、受信アプリ「AEDFR」を持つ周りの救命ボランティアに心停止の発生地点の情報を発信して知らせることができます。

その救命ボランティアが近くに設置してあるAEDの情報をアプリ上で確認し、それを持って現場に駆けつけて、1秒でも早く AEDを必要な人に届けられる確率を上げるのがシステム全体の仕組みです。

今後さらに多くの人を巻きこんで、日本全国、世界までこのアプリを使った人命救助の仕組みを拡げていきたいですね。

「共感ベースじゃなきゃ人は動かない」という発想で組織をつくる

—これからサービスを社会にどうやって浸透させていくかについて、広告・マーケティング活動なども含めてどうお考えですか?

玄正:日本の社会ってインフラはかなり充実していますが、そのインフラを有効に活かしきれていない部分も多いと思います。お金をかけて施設を作ったけどあまり使用されていない、というのもよく聞く話ですよね。

AEDも同じで、日本は世界一普及しているけど、置いたあとの使用は偶然性に任せている部分が多くて活用できるケースが少ない。活用率を上げるためにもっと高密度にAEDを置くという方法では莫大なお金がかかる。だからこそ、みんなが日常的に使うスマートフォンのアプリを活用して心停止の発生情報を近くの人に確実に知らせることがこの社会問題を解決するソリューションだと思っています。

そうした既存のインフラの有効活用は、いまの時代に求められているものであると思います。成果が出れば人命救助という大きなインパクトが得られますし、ニュースで取り上げられることも期待できます。広告予算の捻出が厳しい小さなスタートアップ企業であっても世の中にサービスを訴求できると思います

—一方で社内の組織をまとめることについて、これまでフリーランスでやってこられた期間の長いと思いますが、どのような組織づくりをされてきたのでしょうか?

玄正:まず「共感ベースじゃなきゃ人は動かない」という想いがあります。このAEDを届けるアプリのプロジェクトは、ハッカソンから生まれたものです。

そのハッカソンには、他の参加者は最初からチーム単位で参加していました。しかし私は1人で参加したので、同じく1人で参加した人と2人でチームを組みました。しかし2人ともエンジニアではなかったんです。アイデアのプロトタイプを作るには、このアイデアに共感して手伝ってくれるエンジニアをハッカソンの外で探さないといけなかった。途中からチームにジョインしたエンジニアがアプリのプロトタイプを作ってくれて、ハッカソンで優勝したところからプロジェクトはスタートしました。

社会問題の解決のために考えたアプリなので、当初はビジネスモデルもありませんでした。ハッカソンは数日間で終わるイベントですから、その後もずっと継続的にプロジェクトを続けるのとはわけが違います。自分以外の人はどんどんチームから抜けていき、新たな協力者を見つける必要がありました

しかしビジネスモデルが描けない状況では、いかにビジョンに共感してもらうかという以外にありませでした。とにかく多くの人に会ってサービスについて語り、そこで共感してくれる人に手伝いをお願いするという形で進めてきました。自治体にシステム提供して収益を得るというサービスモデルにピボットしてから少しずつ協力者が増えていき、組織が形になってきつつあります。

特に弊社の取り組んでいるシステムやアプリは、レスポンスのスピードを1秒でも時間短縮することや、使いやすく誤操作が起きにくいUI設計の追求、サービスのUXを高めて多くの人が参加したくなるものを作ることが救命成果に直結します。また、IoT、ビッグデータ、AIなどの新しい技術と連携してサービスを進化させ、インパクトをより大きなものにしていくことを目指しています。

そのための技術的な課題や挑戦は尽きることがなく、開発者にとってチャレンジグで、かつやりがいの大きな仕事であると思います。

熱意だけでは社会は動かない。人を説得するには数字の裏付けってところが必要

—玄正さんは京都大学の教授と協力して開発を進めていますが、その時はどのように説得して巻き込んでいったのでしょうか。

玄正:何のつながりも無かったので、とにかくお会いしたいとアプローチしてお伺いする機会を頂きました。まだ法人化もしていないプロジェクト段階で、たいした実績もない自分にご協力いただいたことを感謝しています。

なぜ自分に力を貸してくれたかというと「具体的な事実から計画を深めて持っていった」のが良かったのだと思います。今まで「心停止で身内が亡くなっているなど、原体験がある熱意がある人」からの話が多かった中で、僕は特に何か強いキッカケがある訳じゃないのに論理的な発想からこの問題に取り組んでいます

そこに驚かれて、こういう人が社会を変えてくれるんじゃないかと思ったと教授は仰っていました。

—その姿勢が客観的な視点での分析につながって、それこそが「共感」を呼んだのですね。

玄正:そうですね。僕が一番重視したのはデータですね。ビジネスってやっぱりデータの世界。数字があるだけで、色々と導入されたりする。だから僕は最初にデータに当たりました。初めに言ったAED使用率3.5%という数字も、国がそういう数字を出していないので、省庁の統計データから計算して導き出した数字なんです。

AEDのような社会課題の解決って、「やるべき」という熱意だけでは社会は動かない。人を説得するには「やるべき」+数字の裏付けが必要になってくるかと思います。

—なるほど。本日は、共感をベースとして人の動かし方やスタートアップの組織づくりまで、多くのエンジニアにとって参考になるお話を伺うことができました。ありがとうございました!


玄正 慎さん
Coaido株式会社CEO/アプリプランナー

横浜市立大学卒業。ヨコハマ経済新聞記者、ビジネス誌フリーライター、不動産会社勤務を経て、2009年よりiPhoneアプリプランナーとして活動する。2010年にリリースした「就活ES実例」は就活生の定番アプリに。ハッカソンでAED活用率向上アプリ「AED SOS」を発案したことをきっかけに、2014年にCoaido株式会社を創業。ITを利用して、心停止者救命の社会課題の解決に取り組む。

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